ちょい前まで一世を風靡していた「ちょい不良オヤジ」たち。
脂ぎった「肉食系男子?」も、最近の「草食系男子」の人気に完全におされ気味だ。
とはいえ、クルマ人気復活のためには、「肉食系男子」の時代が必要だという話は前回したとおり。

ところで、「ちょい不良オヤジ」が大人気の頃、
国内外の自動車メーカーはこぞって「あの雑誌」に広告やタイアップ記事を出稿していたのは有名な話。
例の名物編集長が退職する直前の号では広告収入が、なんと5億円とも言われているから驚きだ。
もちろんクルマ業界だけでなく様々な業界から広告出稿のオファーがあっての数字なのだが、
出版不況の当節からみれば夢のような数字であったことに違いはない。

さて、「あの雑誌」が大きなブームとなった頃から、「都会が似合う」と自称する国産車が増えてきたような気がする。
雑誌が提案するメインステージは都会。
しかもナイトステージで肉食を謳歌するためのHOW TO本というイメージだ。
本来、ガイシャが強いこのステージに国産車が参入したこと自体、無理があった。
なかには「単なるガイシャの引き立て役」としか思えないようなタイアップもあったが、
あの頃は誰もが背伸びすれば手の届きそうな世界観であり、自社製品もこの世界観の一員にしたいと願ったのであろう。

時を同じくして、国産車のカタログにも変化があった。
ブランド・アイデンティティの名のもとに、カタログイメージの統一化がはかられたのである。
それまでは、カタチや大きさがバラバラだったクルマのカタログは、カタチも大きさも統一され、ページ構成も同じようなものになった。
さらに、使われる写真もイメージが統一された。
その結果、晴天なのか曇天なのか、そして朝方なのか夕方なのかも不明。
登場するクルマもほとんどが銀色という、はっきり言えば
陰気クサイ!
写真ばかりになってしまったわけだ。

本来、カタログとは造り手から買い手へのメッセージ
そこには造り手の熱い想いが込められていてこそ、買い手は「このクルマに乗ってみたい」と思うはず。
逆に画一化された構成の中では、造り手の強い想い入れは表現しきれないのではないだろうか。
となれば、以前のように様々なカタチのカタログがあってしかるべきだと思うのだ。
(ちなみにR35 GT-Rにはカタログがない。画一化されたものへの水野氏の反骨の表れなのか。とはいえ、webカタログの写真は、やはり陰気クサイ)
さらに、この傾向は国内自動車メーカー全体に言えることであり、カタログひとつとって見ても、クルマに個性がなくなったと思わざるを得ないのである。
結局、全員が「都会が似合うクルマ」をイメージして「無機質感」を演出した結果ではないだろうか。

「都会が似合うクルマ」。確かにイメージはいい。
だが、都心の事務所に勤める自動車会社の社員の内、はたして何人がクルマで通勤しているのだろうか。
恐らく、大半の社員が公共の交通機関による通勤だ。
理由は会社の規則でクルマ通勤を禁止しているからで、仮に規則を無視したとしても駐車場の問題や渋滞などで面倒くさい。
しかも、急なお誘いにも答えづらく、酒も飲めないなら公共の交通機関の方がはるかに便利だというわけだ。
結局、自分たちの現実のライフスタイルからも乖離したところに「都会が似合うクルマ」が存在しているわけで、これでは買い手に実感が伴わないのも当然だろう。

そもそも、クルマの魅力とは何か。
私は、人々の生活の幅を広げてくれるものであり、夢や人生の愉しみをもたらしてくれるものだと思っている。
例えば、生身の状態では0-100mを14、5秒でしか駆け抜けられない男が、GT-Rに乗ればその4倍の0-400mを11秒台で駆け抜けることができる。
あるいは、休日の朝目覚めたら素晴らしい晴天。
そこで「よし、今から富士山を見に行こう!」と愛する人とともに気軽に出かけられるのがクルマの大きな魅力だと思うのだ。

人はなぜ、愛する人とともに美しい景色を見たり、美味しいもの食べたりしたいのか。
たぶん、それは、ほんの一瞬しか見ることのできない美しい景色を見たり、美味しいものを食べることで、
今この瞬間に同じ時を共に生きている喜びをわかちあい、
それを想い出としてこの世に存在した証を記憶に残したいからではないだろうか。
クルマは、そうした人間の願いをかなえてくれるパートナーだと思うのである

歴代スカイラインの中で、最も売れたのがケンメリ・スカイライン。
ケンとメリーのTシャツなどが売れに売れ、社会現象と言われるほどの人気だった。
その人気の源泉となったのがTV CMだ。
この映像を見ると、今述べたようなことが盛り込まれている。
ケンとメリーの二人の人生が中心に描かれ、スカイラインはあくまで従の存在。
この若いカップルが、季節によって日本の様々な風光明媚な場所に出かけるのだが、スカイラインは脇役的に登場する。
ショートストーリー風に仕上げられたTV CMは、ベタな恋愛ドラマのワンシーンのようだが、今見ても「スカイラインに乗ってこんな風景を見てみたい」と思わせてくれるものがあるのは、さすがと言うほかない。
このCM映像には、当時の開発責任者であった櫻井眞一郎氏の「人が中心にあるべき」というクルマ造りの考え方と、「クルマは愛だ」という同氏の哲学が忠実に盛り込まれているようだ。

ケンメリの成功は、「人」と「愛」をプロモーションの中心に据えたから社会現象と言われるまでになったのではないだろうか。
もちろん、当時の時代背景も追い風だったのだろう。
とはいえ、現在のプロモーションにはないものを持っていたことは確かだ。
燦燦とふりそそぐ太陽の光の中を颯爽と「愛」を乗せて走るクルマが、そろそろ現れてもいいように思える。

「都会が似合うクルマ」、はたしてそこには「愛」があるのだろうか?


次回、最終回は自由について考えてみたい。