少し前のことだが、打ち合わせが長引いてしまい帰りが遅くなった。
冬の寒い深夜、クルマで走っていると無性に峠が恋しくなる。

血気盛んな頃、東京近郊の深夜の峠を仲間と走り回っていた頃の記憶が蘇ってくるのだ。
実際には年間を通して走っていたのだが、何故か思い出すのは冬の深夜ばかり。

ブレーキの焼けた匂い。
ヘッドからにじんだオイルの焼けた甘い香り。
麓で買った缶コーヒーを開け、タバコに火をつける。
時々感じる冷え冷えとした山の香り深く吸い込む。
すべり気味のクラッチの焦げた匂いが鼻をつく。
数台のクルマのアイドル音。
眼下に瞬く街の灯り。

思わず助手席の編集長に「峠、走りに行きてぇなぁー」とつぶやいた。
「どこの峠に行きたい?」
「やっぱ、ヤビツでしょ」

ヤビツ峠は丹沢にある、かつての走りの名所。
ヤビツの響きに懐かしさを感じる人も多いだろう。編集長もそんな一人だ。

「ヤビツかぁ。。。今なら何で走ると楽しいかな?」
「ランエボか、インプレッサかな?」
「大きくない?」

ヤビツのコースは、KP61やEP71スターレットあたり調度いい道幅だったように記憶している。
たしかに編集長のいうように最新のランエボやインプレッサでも大きいかもしれない。
ましてGT-Rでは大きすぎるのだ。

「そうだなー、では今さらながらハチロクですか」
「うーん、いや、ニイナナだな! あの難しいクルマを乗りこなすのがオモシロイ」

編集長の言うニイナナとは、TE27型の初代レビン/トレノ。
元々、1200cc~1400ccのエンジンを搭載するボディに1600ccのDOHCエンジンを搭載。
ビス止めオーバーフェンダーを纏ったマシン。
典型的なアンダー/オーバーの操縦性で、そのジャジャ馬ぶりは今でも語り草になっているほどだ。

「ゴゴゴーってソレックスの吸気音を轟かせながら、ねじ伏せて走るのがオモシロイんだよ。
最近のクルマはみんな優等生だからなぁ」

と編集長は隣で楽しそうに語っている。

確かに最近のクルマは乗り易い。
その反面、扱いにくいモノを扱う快感はないといえるだろう。
ニイナナは扱いにくく、まさに乗り手を選ぶクルマだった。
そのジャジャ馬を乗りこなしてこそ、スキ者から尊敬の眼差しを受け上級者としてのメンツが保てる。
コイツは俺だけしか乗りこなせない。そう思えるから楽しいのである。

そう考えた瞬間、あるモヤモヤが一瞬にして吹っ切れた。
今年の夏、GT-R BROS Vol.02の取材でエスプリの前川代表が語った
「チューニングっていうのは、アンバランスさを楽しむもんなんですよ」
という言葉の意味である。
取材当時はあまり深くは考えていなかったし、理解もしていなかった。
しかし、先のニイナナの論議で気がついたのである。

これまで、チューニングというのは乗りやすさを重視しトータルバランスに優れたものが良いと思ってきた。
実際、そういう方向性のチューニングを目指していたことも事実だ。
しかし、実は自分の中にもアンバランスさを求めている部分があったことに、今さらながら驚いた。
新たな再発見をしたことで、ようやく前川代表の言葉の意味が理解できた訳である。
クルマの楽しみ方には、トータルバランスに優れたクルマの楽しみ方もあるだろうし、アンバランスさを楽しむクルマもある。
要は人それぞれに楽しめればいい。

2009年も残り僅かとなった。
人間、50年。調度良い節目となる。
2010年は、何とか良い年にして、峠に再デビューしたいと考えている。