ニスモ・チームかく戦えり
~序盤3戦を終えて~


GT-Rは特認車両だから速いわけじゃない!!

新型GT-R開発のスタートは?
今シーズンのレースとしては、3戦目が終わって3ヶ月ちょうど終わったところですけど、
そこに至る準備、過程があるわけで。開発が始まったのは去年の今ぐらいというか、もうちょっと前かな…。去年のラウンド1が終わった頃だったと思います。
そこで、NSXのありえないような速さを見せ付けられたわけですよ。少なくともこのクルマの能力と勝負するのは、相当大変だというのが去年の3月のラウンド1が終わったところでした。それはトヨタさんでも同じだと思います。GT-Rを開発するに当たって、NSXに追い付き追い越せというのがまずベースにありました。



GT-Rは09レギュレーションを一部取り入れた特認車両で、それが速さにつながっているという見方もあるようですが?
09レギュレーションの早出しの特認車両だから有利じゃないかといわれることはあります。しかし、実際はGTAのテクニカル部会でトヨタさん、ホンダさんを含めてレギュレーションについて散々論議されています。いわゆるレギュレーション的に特別に速くなる要素はほとんどないというのが、まず公式にあるわけです。我々も本気でそう思っています。
ですから、クルマは確かに特認車両として、レギュレーションは一部先出しということで、走らせてもらっていますので、それは感謝しないといけないんですけど、レギュレーションを先取りしたから速くなったというのは間違いです。
そうじゃなくて今年のレギュレーションだとしても、まあ、今回1年前からやったようにちゃんと目標を作って、それを達成するための方策を考えますよ。重心高をどうやって下げようだとか、車体の剛性をどうやって上げようだかとか、エンジンの馬力をどうやったらもうちょっとスムースに出るようになるのかとか…。
そういうのを積み重ねてずっとやってきたわけで、結局レギュレーションのせいじゃなくて、みんなが英知を集めてね、どうやったら少しでも速く走れるのかということを一所懸命、この1年間やってきたっていうのが、ベースにあるわけです。
それで、まず10月に鈴鹿でシェイクダウンして、1月のセパンに3台持っていきました。去年はTカーだけだったんですけど、今年はTカーだけじゃなくてレースカーも2台持って行って、それぞれが3000kmぐらい走ったんです。その時点でライバルと一緒に走っているんですけど、少なくとも自分たちの感触として昨年のZに比べて、かなり戦闘力が上がっていると実感しました。狙ったことが、よくなってきているという感触を1月の時点で得ていたんです。
そういう中でラウンド1は、かなり長距離も走って耐久信頼性も、まず大丈夫でしょうという状態で臨んでいました。ちゃんと準備してきて、どれくらいの能力を持っているという確信と、メディアあるいはお客様からの「GT-Rなんだし、勝って当たり前」ぐらいの大きな期待の両方を背負ってましたね。あとは「レース作戦で失敗しない」とか「ドライバーがぶつけない」とか「雨が降んなきゃいいなぁ」とか…そういうのを含めて、非常にプレッシャーがあったというのがラウンド1・鈴鹿でした。

今シーズのニスモチームが強い理由は?
100%ではないんですけど、やったことは大きくいうと3つあります。
ひとつは、クルマの速さ、耐久信頼性というものを目標どおりに仕上げてきたっていうこと。
もうひとつは、いわゆるチームそのものを強くするっていうことです。昨年の反省を踏まえてエンジニア、メカニックをもう一回、再編しました。ルーチンワークはすぐできる、何かあった場合でもすぐ対応が取れるよう、チームそのものを強くしました。
3つめは、本山・ブノワが代表的な例ですけど、ドライバーのラインナップを変えました。セットアップ・アタッカードライバーと第二ステイントをちゃんと守りきるドライバーというフォーメーションでは、ドライバーのコンビネーションが重要です。1台のクルマを2人で乗りますから、100%自分の好みに必ずしもならないですよね。だけど、そのちょうどいい妥協点というものが、見つけられるのかどうか、そういうドライバーのコンビネーションを重視しました。
これらの3つポイントをシェイクダウン、セパンのテスト、そのあとの岡山、鈴鹿のテストを通じてラウンド1の前にずっとやってきたわけですね。それがかなりいい感じで出来上がってきていましたので、あとはそれを普通の感じでやれれば勝てるはずだということで、デビュー戦に臨みました。

09レギュレーションでのマシン開発


「新しいレギュレーションだから速くなる」というのは、言葉としてはわかりやすいんですけども、技術的にはあまり正しくないです。
例えば、車体の下のほうを09レギュレーションでは多少カットしてもいいですよとなっています。GT-Rだけで見ると、そのレギュレーションだったら「背が高かったのが、薄くできるというメリットあるじゃないか」ってなりますけど、でも、その薄くしたところで高さ制限があって、それって現在のNSXのルーフより高いんです。
それから、ウインドウの大きさとかが変えられないわけで、前面投影面積でいくと従来のZより背は40mm低いんですけど、前面投影面積としてはあんまり変わらないか、むしろGT-Rのほうが幅があるからちょっと大きいくらいなんですよね。たから、別にそれもあんまり得じゃない。ただ、全幅を広げられるのでトレッドが40mmかな、やっぱり広いんでその分しっかりコーナリングできるとか、ホイールベースを少し長く取れるのでピッチングに対して有利だとかはあります。まぁ、ゼロといいませんけど、これらはあんまり本質じゃないと思うんです。
レギュレーション的に明らかに有利だというのであれば、その時点で最初からウエイトを積むとか、そういうことにすべきですよね。だけど、開幕戦までにGTAはそうはしなかった。
昨年のNSXがそうであったように、そのレギュレーションの中で、一生懸命がんばったかどうか。昨年のNSXは頑張ったと思うんですよ。それと同じことで、GT-Rは決められたレギュレーションの中で最大限がんばったということです。ですから、Zと同じ設計思想でGT-Rをただ作っていたら、これはあんまり速くならないですよ。
昨年のZに対して、いわゆるレギュレーション的にそんなに速くなる余地はない。そこは読者にも正しく理解していただきたいですね。

GT-Rの開発ポイント




それでは、具体的にどういうところでGT-Rは速くなったのかというと、まずは空力的な見直し。空力は時間をかけたらかけただけ成果が出てくるんですけど、やっぱり前のZでいうとダウンフォースが足りない。ライバルに比べて明らかに足りない。ダウンフォースをいかに増やすか。
ダウンフォースにも関係しますけど、ブレーキングするとノーズダイブする、ブレーキを離せばリフトアップする。そうしたときに、クルマの下側で結構ダウンフォースを出していますので、地面とのアンダープレートの隙間が変わることでダウンフォースが増えたり減ったりします。これはある程度どうしたって出るんですれど、そのいわゆるピッチ・センシティビティみたいなものを空力的にどうやって減らすかっていうのを一所懸命やったわけですね。
次にメカニカルなグリップを上げなくてはならない。去年の反省としては、キャビンであったり、足回りであったり、多少、コースによっては剛性が足りない。そういう難しさがあったんですけど。車体そのものの剛性であったり、エンジンのマウント部分の剛性の変化を減らしたりとか、ある意味、地道なヤツなんですけど、骨格系を非常にしっかりさせました。シャシーがスチールかカーボンかというより、設計の仕方ですよね。カーボンでやったほうが、より強くて軽くできたかなっていう部分があるのは確かに事実なんですけど、すでにスチールでも要求値に近いレベルまで行っていました。
エンジン取り付け部の剛性であったり、そういうところの方式を全部変えたりして、できるだけ剛性変化の少ないような設計に直しています。剛性ってやつは中々解析では速さの評価がしにくいのですが、設計の人たちと散々議論して剛性をあげることとリニアリティの改善をやってもらいました。判らないことは試してみようと言うことが出来るのがニスモの良いところだと思います。テストしたらどのドライバーも実に乗りやすいと言ってくれています。あのブノワもJPもテストもレースも全然スピンしないしコースアウトもしません。これが良くなったことの何よりの証拠です。
また、重心を出来るだけ下げようというので、重たいもののレイアウトを出来るだけ下のほうに配置し直し、重心高を1mmでも2mmでも下がるように直しています。それはシャシーを新しく設計し直すとできるわけで、あまりレギュレーションとは関係ありません。そういう部分の積み重ねを、ひとつひとつ見ると地味なんですけど、徹底的にやったというのがGT-R開発なんだと思います。
仮説を立てて、それを実際作ってみて、走らせて、明らかにドライバビリティが良くなって速くなっているという部分ですよね。
それからもうひとつは、やっぱりエンジンです。型式は同じVK45ですけど、中身が違います。トップパワーも速さに関係しますが、リストリクターで空気の入って来る量が制限されていますので、非常に過渡的な状態の特性というのをもっとリニアリティを増すとかが必要ですね。さらに低速のトルクを増やすとか、全体のフリクションを下げたりとか、回転部分のフリクションを下げたりと…地道なんですけど、そういうものの積み重ねです。去年のものに比べて、軽く回るようになったし、燃費も結果として多少良くなりました。だけど、それも従来の延長線上できちんと進化させているというのをGT-Rには入れているんですね。

「特認車両だから速い」みたいなイメージは、ぜひ払拭したいですね。GT-Rとは、もっとベーシックなレーシングカーデザインというものを徹底的にニスモのエンジニア、メカニック全員が情熱を持って積み上げて、丹念に作り上げて出来あがっているクルマなんだと。
というのをね、伝えられれば僕はうれしいですけどね。
事実、そうだから。

第2回へ続く。