さて、今日から3回にわたって、元カーグラフィック編集長の塚原 久氏によるNISSAN GT-R Club Track editionのインプレッションと解説をお届けする。

Text: Hisashi Tsukahara
Photo: Yoshio Moriyakma



■ワンメイクレースではない
 日本でワンメイクレースが行なわれるようになってから約30年の月日が経っている。草分け的存在であるシビックレースが生まれたのは1981年で、その後ミラージュカップ、VWゴルフを用いたポカールレース、マーチカップなどがバブル景気を背景としてフルグリッドの活況を呈し、さらにザウルスカップやフォーミュラトヨタといった、純レーシングマシーンによるワンメイクレースも乱立された。
 
それらのワンメイクレースが景気後退によって沈静化した頃、ふたたびワンメイクレースに新たな潮流が起きた。JAFが発行する「自動車登録番号標付車両規定によるレース開催規定」に則った車両によって争われるレースだ。2000年に解禁された「ナンバー付き車両」によるレースは、トヨタ・ヴィッツやマツダ・ロードスター/RX-8、VWビートル/ルポ/ポロ/ゴルフなどのシリーズを産んだ。

 こうした数多あるレースもほとんどが過去の遺物と化してしまった。シビック、マーチ、ヴィッツなどはレギュレーションを少しずつ変えながら生きながらえているものの、エントリー数は全盛期を大幅に下回り、存亡の危機に立たされているカテゴリーもある。その一方でショップが開催するサーキット走行会や、アイドラーズ12時間耐久に代表される草の根型モータースポーツは今も盛んである。つまり今の自動車ファンが指向するのはレギュレーションによってがっちり締め付けられ、ドライバーの腕とセッティング能力をラップタイムによって冷酷に示してしまう本格的なレースよりも、クルマの改造範囲を含めてしばりが少なく、順位よりもレーシングスピードで走ることそのものを楽しむ層に向けたカテゴリーが増えていることを物語っている。その昔“ワンメイク荒し”の異名をいただくほど多くのレースを経験した筆者としては寂しい思いもあるのだが、レースの世界も昭和的な競争社会から平成らしい多様化の時代になったと言えるだろう。


 そんな今、登場した“GT-R CLUB TRACK EDITION”は、いわゆるワンメイクレースとは異なる方向性を打ち出すことになった。車両の成り立ちや運営に関しては前項で紹介されているが、ここで簡単におさらいしておくと、2011年型GT-Rをベースとしてサーキット走行用の改造を施された“クラブトラックエディション”の価格は1047.9万円(4点ロールケージを持つ基準車の価格、消費税込み。6点式ロールケージ仕様は1113万円)とされている。

この経済状況において、公道走行もできないサーキット走行専用車(ただしサーキット走行車としての使命を果たした後はサーキット専用パーツの変更を行なった後、ナンバー登録が可能)にこれだけの大金を投じることのできるオーナーがどれぐらいいるかという疑問の声も聞くが、GT-R SPEC Vが1575万円することを考えると、このクラブトラックエディションは決して高くない。4点ロールケージ車両で1630kg、6点タイプで1660kgという軽量化はスーパースポーツたるGT-Rにとって見逃せない特長だし、この価格の中にはロードカーの純正タイヤと同じダンロップ製ランフラットタイヤ(クラブトラックエディションにとってはウェットタイヤとして使用される)に加えて20インチのダンロップ製スリックタイヤまで含まれるのだから、割安といっても過言ではない。先に述べたロールケージだけでなくレースカーとして必要なカットオフスイッチや自動消火器、ボンネットピンなどの安全装備に抜かりはなく、前後のデフオイルクーラーなどクラブトラックエディションには数々の改造が施されていることを考えると、1100万円以下という価格は無謀なバーゲンプライスとさえいえる。


 なおクラブトラックエディションにはノーマルシートが装着されて納車されるが、走行用のシートはユーザーが持ち込むことを前提としており、自分好みのレース用フルバケットシートを購入し、装着することができる。特別な指定がない場合はオプション装備として標準的なレカロ(49万5600円)や、シート背面と座面部にクーリングダクトを設けたNISMOクーリングシート(92万9250円)が用意される。助手席を装備することも可能で、その場合には当然助手席用6点シートベルト(7万3500円)をオプション装着する必要があるはずだ。他にもエンジンオイルセパレーター(7万3500円)やトランスミッションクーラー(57万8550円)など、オプションにも必要不可欠な装備が列記されているが、個人的に注目したいのは、USBメモリを用いて走行データを即座にダウンロードできるNISMO製データロガーキット(標準搭載品)。センターディスプレイを通じて走行中も基本的なデータは読み取れるが、やはりマシーンを降りてからの方が冷静にデータ分析はしやすい。現代では入門フォーミュラカーにもデータロガーはほぼ標準装備されており、データを元にドライビングテクニックの向上を図るのはレース界では常識となっている。せっかくクラブトラックエディションを走らせるなら、是非活用すべき装備だろう。


 なお参考までにこの種のワンメイクレースカーの世界的な最高峰として認知されているポルシェ911ベースのカレラカップカーの価格はいくらかというと1995万円(2010年モデル)である。こちらはレース専用のシーケンシャル6段トランスミッションを持つこともあってロードカーに転用することはできないにもかかわらず、毎年輸入割り当て台数(年によって異なるが7~10台程度)が販売開始とともに売り切れるのが通例だ。

第2回へ続く・・・



塚原 久(つかはら ひさし)
80年代からひたすら高性能車のテストに明け暮れた過去を持つ。2010年4月末までカーグラフィック編集長。出場したレースは数知れず、レースの合間に会社勤めをしていた武勇伝は多数。ただし成績は2006年全日本スポーツカー選手権2位が最高と、鳴かず飛ばず。N0からF1まで乗ったことのないレーシングカーはほとんどないのが唯一の自慢。