レースと共に生きたGT-Rの終焉

カルソニックスカイライン
 S20エンジンを搭載した第一世代GT-R。RB26DETTとアテーサE-TSによるトルクスプリット4WDを実現させた第二世代。歴代GT-Rは、いずれもレースに勝つためのホモロゲーション・モデルとして設計・開発され、世に送り出された。
 しかしながら、第一世代が参戦していたTSレースはもとより、第二世代が29連勝を記録した市販車をベースにしたグループAレースも歴史の彼方に消え去った。また、2004年までR34 GT-Rが参戦したスーパーGTでは、太いタイヤと空力で大馬力を受け止められるという理由で、第二世代GT-Rのセールスポイントだった4WD機構を採用せず、後期には歴代GT-Rのアイデンティティである直列6気筒エンジンも捨てて、V6のVQエンジンを搭載するに至った。
Text: Katsuhide Sugino
Photo: GTR-WORLD.net, NISSAN, MotorMagazine.
 レースにワークス体制で参戦するメーカーは、勝つことでそのプロモーションとしての価値を高め、ユーザーに高性能をアピールすることができる。そのためには、レギュレーションで許される限り、ありとあらゆる知恵を絞ってエンジンやシャシーを開発する。すでに旧世代となったRB26DETTを最新のVQに換装するのは、当たり前の話。
 もちろん、同じ頃に市販車をベースとしたスーパー耐久にR34 GT-Rは参戦し活躍していたが、GT-RがGT-Rたる所以のワークスとしてのGTマシンでは、市販車との共通項はメインモノコックとデザインイメージだけで、レース参戦用ベースマシンというGT-Rの存在理由を失ってしまったのだ。


C・ゴーン自らがスーパーカーと呼んだ

東京モーターショー2005
 第三世代となる新型R35 GT-Rは、今までのようなスカイラインのエボリューションモデルとしての成り立ちではなく、あくまで日産GT-Rという独立した車種として開発された。レギュレーションを意識した設計はされていない。
 もちろん、スーパーGTにはR34 GT-R時代と同じくメインモノコックを使用して参戦するだろうが、エンジンはV8で市販車とのつながりは薄いものといえよう。スーパー耐久への参戦も現時点では不透明。
 それでは新型R35 GT-Rは、どうやってその存在意義を成立させようとしたのか? 環境問題が厳しく語られている昨今に、GT-Rのような大排気量かつハイパワーの“地球に厳しい”クルマをデビューさせるには、それ相当の理由付けが必要になる。
 それに対し、カルロス・ゴーン社長が自ら答えた。しかも、10月24日の東京モーターショーでの正式発表前にテレビの取材で、である。そして、ゴーン社長は繰り返し、こう答えた。「新しい日産GT-Rは、日産の技術を象徴するスーパーカーである」と。メーカー自らがスーパーカーと名乗ったクルマはかつてない。


280ps規制撤廃がスーパーカーへの道を開いた

新型R35GT-R
 1989年にR32 GT-Rがデビューした際に、当時の開発担当主管であった伊藤修令氏は「復活したGT-RはグループAレースに勝つ為に作ったが、世界最高のロードゴーイングカーであることも目指した」と語った。
 ポルシェが959で開発したものの、当時の911シリーズへの採用が見送られた電子制御トルクスプリット4WDを日産は実用化。R32 GT-RはFRのドライバビリティと4WDのトラクションを併せ持つ全天候型のスーパースポーツとして、国内専売車にも関わらず当時の世界の自動車メーカーに衝撃を与えた。そして「技術の日産」は、ファンに再認識された。
 新型GT-Rも、基本はアクティブ制御のトルクスプリット4WDにハイパワーなターボエンジンの組み合わせ。しかも第二世代と違い、レースのレギュレーションに縛られずに排気量を設定。例の280ps規制も事実上撤廃され、ポルシェ、フェラーリら世界のスーパースポーツに匹敵するパワーを発揮することが許されたのである。
 新型GT-Rが目指すのは、全天候での最速・最強のスーパーカーである。もちろん、ポルシェには911ターボ、アウディにはR8、そして元祖スーパーカーのランボルギーニにはムルシエラゴ、ガヤルドといった4WDのスーパーカーが存在するが、新型GT-Rはそれらに比較すると費用対効果の差は歴然。R34 GT-Rに比べると高額になったとはいえ、480psを発揮するクルマを800万円以下で探すのは無理な相談だ。
 しかし、世界のライバルと渡り合うのにFRベースの4シーター・クーペというボディはハンディとならないのか?


グランツーリスモが広げたGT-Rブランド

NISSAN MID4
 日産にはかつて市販直前まで開発が進んでいたミッドシップ4WDスーパースポーツが存在していた。R32 GT-Rに先駆けて、1985年にフランクフルトショーで研究実験車として発表されたMID4である。1987年にはVG30DETを縦置きにしたMID4-IIが東京モーターショーで発表される。おりしもバブル真っ盛りの日本であったが、あまりにも高額車になることと採算が取れないことが予想されたため、お蔵入りとなってしまった。
 車高が極端に低くミッドシップレイアウトであれば、スーパーカーというイメージに適合しやすいが、それだけではフェラーリ、ランボルギーニのブランド力にかなわない。そこで、全天候型のフルタイム4WDという付加価値をつけたのだが、残念ながら老舗ブランドに対抗できる力はまだなかったといわざるを得ない。
 それに比べ、第二世代GT-Rの知名度はレースシーンでの活躍や、プレイステーションの「グランツーリスモ」により世界中に広がり、日本の「スーパーカー」として認知され始めている。新規にミッドシップ4WDを開発するより、第二世代GT-Rのイメージを引き継ぐことが、新型GT-Rにブランド力をつけることにもなるのだ。そうなると、FRベースの4シーター・クーペもスーパーカー・GT-Rのアイデンティティになる。
NISSAN R35 GTR
 ゴーン社長がいわんとするところは、世界のスーパーカーと呼ばれるカテゴリーのクルマたちと比べて、超高性能をリーズナブルな価格で世界に供給できるところも含めて「スーパーカー」なのであると。そして、それが日産の技術を象徴する存在となるというのだ。
 本当に、ポルシェ911ターボに勝るとも劣らない性能を新型GT-Rは身につけているのかどうかは試乗してみるまでわからないが、公表されたスペックはスーパーカーそのもの。願わくは新型GT-Rがスーパーマーケットにも乗り付けられる実用性が高いだけの皮肉な“スーパーカー”、味気ない超高性能車でないことを祈りたい。
 例え筑波ラップでGT-Rを凌駕する2リッターターボの速いクルマが出現しようとも、歴代GT-Rが愛着をもって乗り続けられたのは、GT-Rというクルマが歴史を背負ったクルマであり、オーナーと共に物語を作り出す稀有な存在だったからに他ならない。赤い"R"のエンブレムにかけられた魔法を、歴代GT-Rオーナーとファンは今も信じている。歴代のGT-Rは、オーナーの人生観をも変えてしまうほどの魅力、魔力を持ったクルマだったのだから…。新型GT-Rもそんなクルマであってほしい。