僕は自分自身がつくづく「ラッキーな奴」だと思う。それは数ヶ月前にさかのぼる。僕が海外特派員をしているアメリカの「AutoWeek」誌から「北海道に行ってGT-Rの撮影をしてきてくれないか?」と連絡が来たのだ。GT-Rだって!?この3文字を聞いたとたん、すでに僕にとってはこの撮影はいつものような”仕事”ではなくなっていた。
Text: Dino Dalle Carbonare
Photo: Dino Dalle Carbonare
Translation: Shin Inoue


“日本”、そして“GT-R”との出会い

 1993年に初めて日本に足を踏み入れたときからずっと僕はGT-Rファンだったのだ! 僕のGT-Rへの“恋”はR32 GT-Rの時代から始まり、そのころから少しずつGT-Rという特別なクルマの歴史を学び始めることになった。1995年、発売直後に友人が購入したR33 GT-Rを運転させてもらったとき、まさに「これこそ僕にとっての“クルマ”だ!」という衝撃を感じた。そして1999年、ついに僕はR34 GT-R V-specを手に入れることとなる。そこからは”GT-Rオタク”への道をまっしぐらだったことは、いうまでもない。

いざ北海道、陸別試験場へ。

 僕がGT-Rを撮影することになったのは、新型GT-Rがベールを脱ぐ予定になっている東京モーターショーからずっと前のことだった。折りしも新型GT-Rはニュルブルクリンクやラグナセカでのテストもブラックマスクをつけて行っており、ニッサンは、このタイミングでのフォトセッションへほんの一握りのフォトグラファー、それも著名海外メディアとの契約フォトグラファーを選んでいたのだ。
 場所は北海道の陸別試験場。フォトグラファーの数を絞ったのも、陸別試験場をその会場としたのも、とにもかくにもニッサンはスパイフォトを撮りたがるフォトグラファーを排除したいからだったが、同時に陸別の美しい風景をバックに撮影をしてもらいたいという意図もあった。僕はフォトセッション前日に北海道入りしたので、その日は撮影のため新型GT-Rを独り占めすることができた。ここでまず驚いたのは、ニッサンの従業員ですら内外装にマスクをしていないGT-Rを見た人はほとんどいないということだった。

まぎれもなくValue for money。

 
NISSAN R35 GTR
 フォトセッションの当日、まずはR35 GT-Rのデザイナーである長谷川浩氏(日産自動車株式会社 デザイン本部 プロダクトチーフデザイナー)からR35 GT-Rについてのプレゼンテーションを受けた。そのあと、今回撮影する2台のGT-Rがあるガレージまでバスで移動した。これは仕事なんだとわかっていても、そこにはいつになく興奮している自分がいた。バスの窓からマスクをしていないGT-Rが見えた瞬間から、もはや仕事という感覚はなくなっていた。
 バスから降りて、ガレージ内のGT-Rへ近づき、そのエアロダイナミックなボディを仔細にに観察した。まず驚いたのが、フロントバンパーのデザインがGT-R PROTOよりもトーンダウンしていることだった。GT-R PROTOまで特徴的だったヘッドランプの下端から下へ伸びるブラックの帯がなくなり、とてもプレーンな印象を受けた。それ以外の箇所は、2005年のGT-R PROTOから大きな変更は内容に思ったが、なによりも車幅の広いことにまた驚いた。

NISSAN R35 GTR
 GT-Rの前に立って見ると、幅がものすごく広くて、とても威嚇的で、今まで見たどんなクルマにもない存在感がそこにはあった。GT-R PROTOで「エアロブレード・フェンダー」と名づけられたそのフェンダーもそのまま残っていて、これが新型GT-Rの特色のひとつとなっている。正面から見ると、あたかもフロントホイールアーチが車両本体から飛び出している印象すら受ける。この膨らんだホイールアーチの後ろには、エンジンベイやホイールからの熱を効果的に逃がす「フェンダーバック・スクープ」がある。Aピラーは、サイドスカート、ボンネットダクトやバンパーリップと同様黒く塗られていて、デザインを引き締める役割を果たしている。


NISSAN R35 GTR
 リヤセクションは、リヤスポイラー以外はGT-R PROTOとほとんど変わっていないように感じられた。リヤセクションを引き立てるのはなんといっても、特徴的な4つの“アフターバーナースタイル”のLEDテールライトだ。そしてリヤセクションでひときわ主張しているのが、リヤディフューザーから覗く4本出しのマフラー。R34 GT-Rと同様、リヤディフューザー(リヤアンダーカバー)はカーボンファイバー製で、フロントのディフューザー(こちらはプラスティック製)と相成って車両の下面の整流効果に一役買っている。巨大な20インチホイールは日本のレイズ・エンジニアリング製で、軽量・高強度の鍛造アルミニウムだ。この7本スポークのホイールは、GT-Rベースグレードにはライトシルバー色にダンロップスポーツSP(ランフラット)タイヤが組み合され、プレミアムエディションではホイールはダークシルバー色となる。(他のグレードにはメーカーオプションで装着可能)
 さらに、プレミアムエディションにはブリヂストン・ポテンザRE070タイヤが組み合わされる。このRE070はグリップ性能がさらに高いランフラットタイヤだ。タイヤサイズはフロントが255/40/RF20で、リヤが285/35RF20。巨大なホイールの奥にあるのは、これまた巨大なサイズのブレンボモノブロックキャリパー(フロント6ポット、リヤ4ポット)だ。このブレーキには2ピースのドリルドローターが組み合わされている。ストッピングパワーはもはや疑う余地がない。

イタリア人の僕にとってもみんなと同じ、“GT-R”の“GT-R”たる所以。

NISSAN R35 GTR
 正直に言えば、僕はこのGT-Rに“一目ぼれ”したわけではなく、“じわじわ”と魅力に引き込まれたというべきだろう。誤解を恐れずにいれば、従来のGT-R同様、決して“美しい”車の部類ではない。この新型GT-Rのように、“GT-R”というものは、レースシーンでの無比の成功はいうまでもなく、その“あからさまに攻撃的なルックス”でオーナーを魅惑するのだ。R35 GT-Rは今までのGT-Rの進化系ではあるが、同時に世界の名だたるスーパーカーと互角に渡り合うために、必要な多くの要素をそれらのスーパーカーから吸収している。“GT-R”のバッヂをつけるに値するこれだけの“仕事”をするに5年を要したのも、これなら頷けるというものだ。
 ワールドワイドモデルとしての最低条件はさることながら、それよりも何よりも、GT-Rのバッヂをつけるからにはとりあえずはこの地球上でベストなパフォーマンスカーでなければならない。GT-Rのスパイフォトやスパイビデオでもおなじみだが、ニッサンがポルシェ997ターボをR35 GT-R開発時の目標にしていたことは明らかだ。ポルシェ997ターボあたりを射程内に収めるには、相当のハードウェアが必要であることは容易に想像がつくが、GT-Rを発表することができるということは、ニッサンはGT-Rは997ターボを凌駕する性能に確信を持ったと考えてよいだろう。それだけではなく、忘れてはならないのは、GT-Rは他のライバルよりもずっとずっと安いプライスタグがつくということだ。GT-Rの日本国内の価格は770万円~。従来のGT-Rと同じように、これは驚異的なコストパフォーマンスだ!


逸る気を抑えてディテール観察。

R34 GTR METER
 僕が特に気に入った部分のひとつは、シンプルでかつ機能的なデザインのアルミ製ドアハンドル(ドアノブ)だ。親指で押して、飛び出たノブを引くだけ。すこぶる直感的だ。全車キーレスエントリーシステム採用なので、ポケットにキーを入れておけばドアノブに手をかけるだけでアンロックできる。車内に乗り込めば、電気仕掛けがいっぱいある。たとえばスポーティなレザーシートは電動だし、プレミアムエディションはシートヒーター付き。巨大な7インチのマルチファンクションディスプレイや、11個もスピーカーを擁するBOSEサウンドシステムまで装備している。ダッシュボードやドアトリムは本革張りで、上級感満点だ。ステアリングホイールにはクルーズコントロール(GT-Rに!)やオーディオシステムのコントロールボタンが所狭しと並んでいる。コンビネーションメーターの中央にはレブカウンターが陣取り、その左にスピードメーター、右に小さな液晶ディスプレイが配されている。

 レッドゾーンは7000rpmで、スピードメーターは340km/hまで。いやでも期待させられる数字だ!エンジンスタートボタンを押してエンジンをかければ、あとはアルミと本革をまとったシフトノブか、
マルチファンクションメーター
ステアリングホイールの裏にあるパドルを使ってギヤを選んで発進だ。新開発のデュアルクラッチシステムがシフトアップもシフトダウンもやってくれるので、クラッチペダルはもうそこにはない。プレイステーションのゲーム「グランツーリスモ」シリーズを手がけるポリフォニー・デジタルがマルチファンクションメーターのグラフィックデザインを手がけている。このマルチファンクションメーターはR34 GT-Rのそれをさらに進化させたもの。ブースト圧、エンジンオイルの油温、油圧、フロントトルク、コーナリングG、ギヤボックスの油温、水温、スロットル開度、ブレーキポジションなどをリアルタイムに表示させることができる。最適なギヤポジションを示すインジケーター機能もあるし、これはあまり使わないかもしれないが、瞬間燃費などを表示する燃費計はVR38DETTエンジンがどんなに大食いかを教えてくれるだろう。ニッサンは8.2km/Lと公表しているが、これを実現するにはどんなにゆっくり走らなくてはいけないことか!そしてもちろん、この7インチディスプレイにはHDDナビゲーションシステムやインダッシュ6連CD/DVDチェンジャーが組み合わされている。

セットアップスイッチ
 ディスプレイの下に目を向けると、3つの”R”ボタンが見える。この3つのボタンで4WDシステム、アクティブサスペンション、トラクションコントロールの各モードを変えることができる。これらのボタンを“R”側に5秒間押し続けると、GT-Rは“Rモード”になるのだ。“Rモード”がどんなものかはまだ説明されていないが、サーキットや高速域のためのスポーツセッティングになることは想像に難くない。ちなみに、4WDは“スノーモード”、サスペンションは“コンフォートモード”、トラクションコントロールは“OFF”を選択することもできる。インテリアデザインに関して、ニッサンはデザインと高機能、組み付け品質のどれをとってもすばらしい仕事をしている。世のスーパーカーたちはこの辺が弱点であったりするわけで、この点についてGT-Rと比較をするのがかわいそうなほどだ。今までのように、GT-Rのプアな内装品質をあざ笑う日々は終わったのだ。ダッシュボードにストップウォッチを置くよりも、この7インチディスプレイのほうがずっとクールなのは言うまでもない。(マルチファンクションメーターにはラップタイマー機能もついている)


このクルマはやっぱり“GT-R”だ!

NISSAN R35 GTR
 ディテールを観察した後、ついに新型GT-Rをガレージから出す。僕は迷わずGT-Rの後ろ側へ回った。巨大なエキゾーストが奏でるVR38DETTのV6ツインターボサウンドを聞くためだ。もちろん期待通りの音だ。エンジン回転数が上がるにつれてエンジンが目を覚ましたようにエキゾーストノートは深くとどろくような音になる。一転、アイドリングでは驚くほど静かで、穏やかな表情となる。しかし加速し始めると一転して100% GT-Rだ!走行写真を撮影しているときに聞いた高回転域のエキゾーストノートはまさに獰猛。気になった点といえば、アイドリング時のデュアルクラッチギヤボックスの音だ。ヒュンヒュンカラカラ音がしていて、これだけは生産車になるまでに改善して欲しいところだと感じた。加速性能は“野蛮なくらい”といってもいいほど圧倒的で、ギヤチェンジも瞬時だ。オートマティックモードでの燃費を考慮したプログラムも秀逸で、常に実用域での一番高いギヤを選んでくれる。

 ボンネットを開けたとき、実はちょっとだけがっかりした。RB26DETTエンジンで誇らしげに輝く赤ヘッドはVR38DETTのそこにはなかった。6本のインテークパイプの周りにはきれいなプラスティックカバーがついていたが、いたるところに蜘蛛の巣のようにパイプが乱雑に走っているのが見えてしまう。重量バランスのためにここまで配慮したのかとニッサンを誉めなくてはいけないのかもしれないが、エンジンの前面にあるラジエターのタンクなどは特に興ざめだ。エンジン本体はアルミニウムのフロントサブフレームのずっと後方に納められていて、トランスアクスルギヤボックスを相成って完璧な前後50:50の重量バランスになっている。ボンネットのエアダクトはエキゾーストマニフォールド一体型のIHI製ターボチャージャーに冷えた空気を導いてくれる。エキゾーストマニフォールドとターボチャージャーが一体となっているので、もっとパワーが欲しくても、チューナーがより大きなターボチャージャーに交換するというのは、しばらくは無理そうだ。VR38DETTエンジンには、スカイライン370GTのVQ37HRエンジンと同様可変バルブタイミングシステムVVELが採用され、燃費と排ガス性能だけではなくトルク、パワー、レスポンスの向上にも役立っている。燃料の直噴システムもささやかれていたが、これは推測に過ぎない。

はたして僕はR34 GT-RからR35 GT-Rに乗り換えるのか!?

NISSAN R35 GTR
 最後にもっとも重要な疑問が残った。R34からR35に乗り換えるか否か。答えは“まぁ、YES”だ。僕はスポーツカーに過剰な快適性を求めない。ニッサンは新型GT-Rを「誰でも、どこでも、どんな時でも最高のスーパーカーライフを楽しめる」というコンセプトをマーケットに訴求しようとしているが、それにしてもなんでも詰め込みすぎた気がしてならない。その結果が1740kgという巨漢となってしまっているわけだ。そんなわけで、僕はしばらく静観して、噂されているレーシングバージョンを待とうと思う。

結局、多くのGT-Rエンスーのように買い替えを5年も待てた自分がここにいる。あと数年なんてすぐだよね!